アダム・ブラウンさんは2007年、男性向けスイムウェアとレジャーウェアを専門とするイギリスのアパレルブランド、オールバー・ブラウンを立ち上げました。ロンドンのフラムにある倉庫を拠点に、自身がデザインし、紳士服のテーラーのように手間をかけて仕立てた1000着を売ることから始めたそうです。そして2021年の今、オールバー・ブラウンは数百万ポンド規模の企業に成長し、ヨーロッパ、アメリカ、カリブ諸国などにも店舗網を拡大しています。ブランドに大きな影響を与えた映画『007』シリーズにも、ウェアが複数回登場。最新作の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でも採用されています。
アパレルに参入する前は、どんなお仕事をしていましたか?
学校を卒業してもやりたいことが見つからない人は多いと思いますが、私もそのひとりで、やりがいのある仕事を見つけられずにいました。広告代理店や不動産会社で雑務的な仕事をした後、ボランティアの世界に入り、HIV関係、刑務所関係、児童福祉団体など、さまざまな組織で大口の寄付金を集める仕事に8~10年ほど携わりました。その後、もう一度大学に入って写真を勉強し、ポートレート・フォトグラファーとして6、7年活動しました。子猫や犬、子どもなどのポートレートを撮っていたものの、広告などの大きな仕事が入ることはないと分かっていたので、いろいろと考えるようになりました。もう40歳だし、借金はあるし、たいした財産もない。そろそろ何かを始めて人生を変えなければいけないのではないかと考え始めました。
ファッションの世界に入ろうと思ったきっかけは何でしたか?
休暇中に、昼食を食べに行くのにいちいち部屋に戻って着替えなければならなかったことがきっかけでした。プールサイドで日光浴をしながら、「スイムショーツじゃなくて洋服のショートパンツがあればいいんだ。泳げるショートパンツがあれば、そのままレストランにも入れる」と思いついたわけです。サイドにファスナーを付けて、洋服のようにしっかり仕立てて、それから、少しおしゃれなものがいいなどと、頭の中でデザインを組み立てました。そして休暇から戻って、3日間のファッションビジネスの講義と、1週間のデッサンの講義を受けました。
そのようにしてデザインされたショートパンツは、いかがでしたか?
その時にできたのが、前にフラップが付いたドローストリング(紐付き)のものです。丈は3種類にしました。そのショートパンツは今では当社の定番商品になっています。当時、休暇先で会う友人はみんな、安っぽいTシャツとだらしないショートパンツで、非常にみすぼらしく見えていたんです。普段ロンドンにいるときは、ちゃんと身なりに気を遣う人たちなんですよ。私はそこにビジネスチャンスがあると考え、メンズスイムウェアというカテゴリーを再構築することにしました。それまで男性のスイムウェアと言えば、「スポーツ用」「サーフィン用」に作られたブカブカのボードショーツが当たり前で、シルエットなどはあまり考慮されていませんでした。そこに市場ギャップがあり、できることがあると考えたのです。
幼いころから映画『007』シリーズに影響を受けていたのですか?
そうですね。必ずしも意識していたわけではないかもしれませんが、ロジャー・ムーアやショーン・コネリーの影響はあったと思います。オールバー・ブラウンの初期のころ、アイデアを可視化するためのムードボードを作るときはいつも、彼らの写真を使っていました。映画にはタオル地の衣装がたくさん出てきますし、冒険、ユーモア、ウィット、ロマンスがあふれています。ジェームズ・ボンドが人を守り、助けるのも素晴らしいと思います。スティーブ・マックイーンやジェームズ・ディーンと並んで、男性たちがなりたいと願うヒーローのひとりですね(私も彼にあこがれ、彼のようになりたいと思っていました)。ボンドを手本にするのはごく自然なことだと感じていますし、迷いを感じたことはありません。当社ブランドのスピリットやテイストを売り出すにあたっては最初から、そして常に、ボンドのイメージがありました。『007/スカイフォール』で当社の製品が使われたのは、全くの偶然でした。非常に幸運なことに、コスチュームデザイナーの判断で採用していただいたものです。もっとも、まばたきをしたら見逃してしまうほど一瞬しか映りませんでしたが。
ファッションアイコンとしてのジェームズ・ボンドと言えば、タキシードなどフォーマルなスタイルを思い浮かべるものですが、ブラウンさんはボンドのレジャーウェアに共感したわけですね。
そうです。特に丈の短いショートパンツが印象的でした。オールバー・ブラウンを創業したころは、メンズのショートパンツはもっと幅も丈もゆとりがあるものが求められているとよく言われましたが、私は「ショーン・コネリーの短いショートパンツを見ろ」と言ったものです。明るい色のエレガントなパンツに、Tシャツではなくボタン止めの前開きシャツを合わせた着こなしは、品があって洗練されていて、休日でもTPOに合わせた装いを大切にしていることが分かります。。
映画『007』シリーズでお好きなシーンはありますか?
ひとつ挙げるなら『007/ゴールドフィンガー』でショーン・コネリーがベビーブルーのオール・イン・ワンを着ているところです。大胆な衣装を選んだものだと思いますが、彼はそれをさらりと自然に着こなしています。
ご自身が出かけた旅行の中で、最初の大冒険は何でしたか?
私は旧マラヤで生まれました。その後、両親は香港へ引っ越し、私は日本に住みました。初めてイギリスに戻ってきたのは8歳か9歳のころなので、幼いころの思い出は東京での学校生活など、すべて外国でのものです。私の祖母はイギリスに住んだことがなく、ボルネオやインドで暮らしていました。祖母の世代にはそういう人も結構いたようですね。有難いことに祖母は話が上手で、アルバムを見ながら彼女が体験した冒険のことを生き生きと話してくれました。そんな祖母に育てられたので、祖母が私の根っこに大きな影響を与えたことは間違いありません。私は15年以上前から毎年、砂漠やジャングルに行くとか、登山やハイキングをするなど何でもいいのですが、何かしらの冒険をしたり、行ったことのない場所へ旅行をしたりすることにしています。ナミビアで数週間かけてトレッキングをしましたし、数年前にはブータンを回りました。チリの火山のハイキングもします。
ビーチでバカンスを楽しむこともあれば、そういう冒険をすることもあるのですね。
私はコーンウォールのビーチや大きな波が好きで、よく出かけます。海、崖の上、波が砕ける様子や音などがいいんです。海が穏やかで太陽が暖かいカリブにも行きたいですが、私にとってビーチと言えば、コーンウォールのような野性的なビーチなんです。
好きな都市はどこですか?
ニューヨークが好きです。常にエキサイティングな街です。それから、ブリュッセルとコペンハーゲンで、市場やアンティークショップを見て回るのも好きですね。
好きな料理の種類は?
イタリア料理です。どこへ行っても、その土地ならではのイタリア料理があって楽しいです。
あなたのパッキングスタイルは?
荷造りをするときは、昼用と夜用の装いを丹念に選び、色合わせやコーディネートをよく考え、スマートなパッキングをします……と言いたいところですが、実際は全く違います。いつも詰め込み過ぎて、結局もう一度やり直す羽目になってしまいます。
旅にいつも持って行くものは?
トランプを1組。
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