ロンドンを象徴する五つ星ホテルのトップ執事より、荷造りのコツと、現代社会において自分のペースを保つ方法を伝授して頂きました。
執事というと、小説などで有名な執事キャラクター“ジーヴス”のようなストイックで、ご年配で、少し厭世的で、常に毅然としているイメージが強いかと思います。確かに、表面的には豪邸と使用人という図式は過去のものとなりました。しかし、現代においても五つ星サービスの世界では忠実な執事は必要不可欠な存在として信頼され続けています。
「執事は過去の遺物だというイメージをよく持たれます」と、ザ・サヴォイ・ホテルの執事長、ショーン・ダヴォレン氏は言います。「しかし、私たちは現代の執事です。常にフレンドリーにオープンマインドで接し、お客様が必要とされているサービスをきちんと理解していなければなりません。細かなディテールが重要なのです。多くの方はベッドルームのクッションの様子まで気にされないかもしれませんが、私たちは人知れず最高の舞台をセッティングし、雰囲気作りに努めています。極上のサービスを提供できるよう、日々、努力を重ねています。」
ロンドンを象徴するザ・サヴォイのアールデコ調の玄関前広場をダヴォレン氏が初めて通り抜けたのは(ホテルが約300億円を費やして行った3年間のリフォーム期間を除き)およそ40年前のことになります。トップまでの早い出世の道中にダヴォレン氏はありとあらゆる場面に遭遇してきました。すべての優秀な執事がそうであるように、ダヴォレン氏は何に対しても冷静に構えます。(ひとりのゲストが持参した)150個ものスーツケースの荷ほどきをしたことや、結婚式当日の朝にウェディングドレスにコーヒーをこぼしてしまった花嫁さんのことなど、淡々と日々の出来事を語ります。しかし、日々の仕事(あるいは要求の多いゲスト)がどのような試練を投げかけても、ダヴォレン氏は究極のプロフェッショナルとして平常心を失わず、常に対応できる態勢でいながらも決して邪魔にならないよう、優雅に佇んでいます。
「接客業はいつも楽しいことばかりではありませんが、人生で学んだ大事なことのひとつに、相手に対する自分の言動がそのまま自分に返ってくる、ということを常に念頭に置いています。決してお客様を差別することなく、お客様がご期待される高いレベルのサービスに、私がいち個人としてそのご期待に応えられるかどうか、常に心に留めております。」
ダヴォレン氏はこう続けます。「最近は男性だけではなく、女性の執事も活躍しています。そして、若いジェット族のお客様は、ご両親がお召しになられていたようなオートクチュールの高級服ではなく、ジーンズ姿でいらっしゃることも多いです。しかし、時代やスタイルの変化とは関係なく、時代を経ても執事の在り方は決して変わりません。」
「執事は地元の大家さんのような存在だと思っています。気の良い、愉快な大家さんとの小気味よい会話は居心地良いものです。執事もそのような温かみのある存在でいたいものです。ザ・サヴォイの建物ではなく、そこに居る人間が魅力的でまた来たくなるようなホテルで在り続けたいです。」
しかしながら、やはり、ザ・サヴォイの建築美と深味のある文化は世界中から人を惹きつけて止みません。ロンドンだけではなく、世界で最も高名な一流ホテルのひとつとして、マリリン・モンローからリアーナまで、創業から130年の間に無数のセレブがザ・サヴォイの有名な玄関を通り抜けてきました。 「ロンドンで最高のホテルです」と、テムズ川と大観覧車のロンドン・アイの絵葉書のような光景が広がる窓の外に目をやりながらダヴォレン氏は力強く話します。「このホテルが私のオフィスです。決して飽きることがありません。」
ショーン・ダヴォレン氏の荷造り術
- ● 基本はプランニングにあります。目的地の天候を調べ、滞在中のイベントを確かめ、ドライクリーニングが必要な場合があるかどうかを見極めます。荷造りは一種のスキルであり、目的地に到着した途端にケースに詰めた服を取り出してすぐに着用できるように準備します。
- ● ケースに詰めた服のうち、一度も着用しなかった服があるのはよくあることです。だからこそ、じっくり計画することが重要なのです。ベッドの上に洋服を広げ、「これは着る機会があるだろうか?必要だろうか?」と丹念に精査します。服に何かをこぼして汚れてしまった場合には現地のドライクリーニングサービスを利用すればよいことをお忘れなきよう。ホテルにはランドリーサービスは必ずあるでしょう。
- ● 荷造り前にスーツケースの中を綺麗に掃除しましょう。ケースは決してベッドの上に広げないようにします。どうしてもベッドの上に広げなければならない場合は、ケースの下にタオルなどを敷きます。乾いた布でケース内部の埃を掃います。スーツケースを保管する際には、私はコットン素材の布にくるんで、ケースが傷まないよう気をつけています。
- ● スーツケースの底面にティッシュペーパーを並べて敷きます。荷物の両側にスペースができるよう、四角形に荷物を詰めていきます。服を平たく詰めてしまうといつまでも平らのままとなってしまいます。デリケートなアイテムは一番上になるようにします。
- ● すべての服の間にティッシュペーパーを挟むようにしています。メンズのジャケットの場合、襟は平らではなくロールさせるのが正解ですので、ロールした形を保つため、ソーセージ状にくるめたティッシュペーパーを襟の下に入れておきます。袖の形を保つためにも、袖にもティッシュペーパーを入れ、前で交差させて詰めます。荷造りにはティッシュペーパーが大変便利で、繰り返し使用できます。
- ● 靴の形を保つため、タイツやストッキング、あるいはティッシュペーパーを靴の中に入れておきます。靴はケースの上の方に詰めないようにします。ピンヒールはケースを傷つけないように注意をしましょう。シューズバッグの使用は大変お薦めです。
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