グローブ・トロッターとのコラボレーションにて実現したスティーブ・ハリソンのデザインによる限定トラベリング・ティーセットの発表を記念し、2018年12月、グローブ・トロッターのロンドン本店にて、ソルトグレーズ(塩釉)手法を得意とするハリソン氏と紅茶の熱い30年間についての展示を開催します。
グローブ・トロッターとのコラボレーションの経緯は?
トラベリング・ティーセットを作りたいという思いがあり、実は、他のラグジュアリートランクメーカーとの話が進んでいました。そんなある日、ヘレフォードに住んでいる友人が会話の中で、ホッデスドンに拠点を置くグローブ・トロッターの名前を挙げたのです。そこで、グローブ・トロッターのビジネス開発部長、ジェームズ・フィッシャー氏とお会いし、その際、参考にヴァニティケースを貸してくださいました。工場の見学もし、こう思いました。「グローブ・トロッターは仕事仲間として完璧だ。」素晴らしい工場で作品を作ることができる好機に恵まれたのです。それに、気分が向いた時に気軽に工場に立ち寄ることができるのです。また、いつも自分一人で作業を完結させてしまうので、今後は誰かと一緒に仕事がしたいと願っていました。しばらくヴァニティケースを持って出かけているうちに、作品にとって大切なものがだんだんと見えてきました。私のティーセットに使用されるプロトタイプを彼らが作り上げた時、その素晴らしさに圧倒されました。
ものづくりに対して何かこだわりをお持ちですか?
こだわりは必要です。というのも、自分が欲しいものがなかなか見つからない時があります。私のものづくりは欲しいものを買うための資金不足から始まったのですが、今となってはピンと来るものがなかなか見当たらないことが一番の原動力となっています。ものの構成から生じるディテールの問題ですね。実用性から生まれた美的感覚を持っています。
最も苦労する作品は?
最も複雑なものはティーポットです。多くの成分で構成されています。ティーポット作りは偶然を大切にしながら作品に動きを与えると同時に、ティーポットとしての機能もしっかり果たさなければなりません。
昔から実用的な作品に惹かれましたか?
はい、機能性は常に重視します。機能性にはどこか魅力があります。美しい絵画に感動するのと同じように、カップにも感動することができ、さらに実用性があります。そして、何か他の要素もあるように感じます。手で触れることのできる、ひとつの体験のような要素が。ティー文化特有のちょっとした儀式の数々にも惹かれます。
ソルトグレーズ(塩釉)手法についてご説明いただけますか?
基本概念としては、高温の窯に普通の塩を入れるとグレーズ(光沢面)が形成されます。偶発的な部分が多く、人間のコントロールが効かない工程です。非常に危険な工程でもあります。窯を破壊してしまうことになるので、ソルトグレーズ手法を行う陶芸家は非常に限られています。私の窯も、現在4代目になります。1つの窯につき30,000 ポンド(約440万円)もかかりますから狂気の沙汰ですが、止められないほどに大好きな手法なのです。
作品はどこで販売されていますか?
以前はギャラリーで販売していましたが、ギャラリー経営者という者は商売に重点を置き、自分とは動機が異なることを思い知りました。何年も自分なりの方法を探し求めていましたが、なかなかうまくいかず、半ば諦めていた頃にソニア・パークさん(日本のアトリエ、「アーツ&サイエンス」創立者)と意気投合しました。私の作品に対してファッションの目線からコレクション全体を見る彼女のアプローチに惹かれました。
ソニア・パークさんに見出されたということでしょうか?
そうなのです。面白い話なのですが、彼女は日本から電話をかけてきて、実はイギリスに拠点を置いているとおっしゃったので「わざわざ日本からすみません、ロンドンにいる際にはお電話ください」と、その時の会話はそれまででした。その約3週間後、再び彼女から「ソニア・パークです。今ケンジントンにいますが、お会いできますか?」とお電話を頂戴しました。結局、彼女は私の作品を何点か購入され、それからお付き合いが始まりました。
「死ぬまでのTo do リスト」で訪れたい旅先はありますか?
韓国をぜひ訪れてみたいです。ソニアさんは韓国人のハーフなので、ぜひ彼女と一緒に訪れてみたいです。中国にも興味があります。何しろ豊かな陶芸の歴史を誇る国ですからね。それに、イタリアも常に新たな発見がある国です。
繰り返し何度も訪れたい場所はありますか?
東京ですね。これまで4回訪れたことがありますが、飽きのこない大好きな街です。
お出掛けの際に必ず持参するものは?
スケッチブック、ペン、鉛筆、そして本。この4つは必ず持参します。
旅の道中に読んだ本で一番新しい物は?
エリック・ギルの「An Essay on Typography」。妻の姉妹がアメリカから送ってくれた本です。
長距離フライトはどのように時間を過ごしますか?
本とスケッチブックを持ち込みます。それに、できるだけ寝るようにします。たまに映画を試しに観たりもしますが、読書の方がはるかに良いですね。照明が落とされた機内は考え事に耽るのにもってこいの空間です。思考を集中させて冷静を保てば自然と熟考でき、浮かんできたアイディアのメモを取ったりしています。
海外旅行中にお土産を買ったりしますか?
それほどでもないですね。他の陶芸家から時々お土産をいただくことはありますが。最近の日本への旅の際は漆器をいくつか買いましたが、あとは仕事用の筆やペンだけです。実用的なものは買いますが、特にお土産のようなものはあまり買いません。私はミニマリストなのかもしれません。もちろん、作品は作り続けているのでスタジオには作品がゴロゴロしていますが、自宅台所は必要最低限のものしか置いてありません。すべてのものに個々の機能が備わっているのです。
海外旅行中、最も印象深い食事はどのような食事でしたか?
ソニアさんと一度、日本の伝統旅館に泊まったことがありましたが、朝食に魚、生卵、そしてご飯を出されました。魚は採れたての新鮮な刺身でした。お新香もありましたね。卵は最初、ゆで卵かと思っていましたが、生卵だと知った時は少しびっくりしました。卵を器の中に割り、醤油を垂らし、かき混ぜてご飯にかけてから魚に手を伸ばします。非常に印象深い朝食でした。
では、最も印象深い夕陽は?
偶然にも、グローブ・トロッターのヴァニティケースを持参しての、ウィスタブルで見た夕陽です。ちょうどその日、グローブ・トロッターを見学し、ヴァニティケースを持ち帰ってきた私は何だか心がワクワクしていました。妻ジュリアの友人のビーチサイドのお宅に向かってドライブをしていくと、とても素敵な夕陽が見えてきました。ビーチに立ち寄り、私は木を集め、たき火を始めました。お湯を沸かし、紅茶を作りました。その時の夕陽を妻ジュリアが撮影した写真が残っていますが、それまでに見たことがないような、魔法がかったような夕陽でした。その景色は心に焼き付き、決して忘れることができない素敵な瞬間でした。
スティーブ・ハリソンはソルトグレーズ手法の実用的な陶芸作品を、ロンドンとウェールズのスタジオで製作しています。
「スティーブ・ハリソン:トラベリング・ウィズ・ティー~どん底から宮殿まで」の展示は、グローブ・トロッターのロンドン本店にて、2018年12月3日(月)~12月8日(土)まで開催予定。
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