マリエラ・フロストラップさんが選ぶ旅の本ベスト5

27 Apr 20

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My Top 5 Travel Books By Mariella Frostrup - GLOBE-TROTTER

グローブ・トロッターのファンだというマリエラ・フロストラップさんは、ラジオ4の番組「オープン・ブック」で司会を務め、また1700年代から現代に至る女性探検家の旅行記を集めたアンソロジー『ワイルド・ウーマン』の著者でもあります。そのフロストラップさんが、自宅で世界旅行を楽しみたい皆さんのために、お気に入りの旅行記を紹介してくださいました。

 

 

Naples 44 by Norman Lewis
『ナポリ44』ノーマン・ルイス著

書名にあるとおり、第二次世界大戦終戦の前年、1944年のイタリア・ナポリの姿をルイスが描写した旅行記です。当時、ナポリの町は威厳を失い、日和見主義者、密告者、闇商人たちが跋扈していましたが、そうした無秩序を楽しむルイスの視点が、すべてのページににじみ出ています。人間性を失い荒廃した町を背景に、空腹のあまり市立水族館の熱帯魚を食べつくしてしまったナポリ市民、舞踏会用のパーティールームを屋内菜園にしたと話す貴族の婦人など、切なくもユーモラスなエピソードが語られます。この本は、ルイスがナポリ訪問の30年後に執筆したものですが、読みやすい短編ながら、デカダンスが支配する町への大いなる賛美と、戦争が持つ愚かで、臆病で、醜い一面がともに描き出された奥行きのある一冊です。

 

Into the Heart of Borneo by Redmond O’Hanlon
『ボルネオの奥地へ』レドモンド・オハンロン著

私が旅行記のおもしろさに目覚めたのは、1980年代のことです。80年代は優れた旅行記が数多く出版され、まさに選び放題というありがたい時代でした。オックスフォード大学の学者でもあったオハンロンは、この作品でビクトリア文学から新時代への橋渡しを見事に行い、変わり者の、主に若い男性たちが、現代文明の利器を駆使して世界の奥地へ出かけ、命の危険さえ冒して読者を楽しませるという新しい作風を生み出しました。行方が分からなくなったサイを追っているうちに秘境の部族に出会ったときのこと、彼自身が深い造詣を持つ動植物の楽園の様子などを、情熱的な筆致で描いています。同行した詩人のジェームズ・フェントンによると、1983年のこの旅はおおむね愉快な旅だったものの、レドモンドはやっかいな同行者だったようです。

 

My Great, Wide, Beautiful World by Juanita Harrison
『大きくて、広くて、美しいこの世界』ワニータ・ハリソン著

まるで一粒の真珠のような魅力的な旅行記です。私がこの作品を見つけたのは、女性旅行作家によるアンソロジー『ワイルド・ウーマン』(こちらも非常にお勧めです)のための調査をしていたときでした。この作品がもっと有名にならないことが、今も不思議です。ワニータ・ハリソンは、奴隷制が廃止されてちょうど30年後に生まれたアフリカ系アメリカ人。10歳で学校を辞め、故郷のミシシッピを離れると、お手伝いさんなどをして資金を貯め、「世界を見たい」という夢をかなえます。彼女の体験を記したこの旅行記は、句読点が抜けていたり文法が不正確だったりするものの、そこには彼女の人柄や観察力がにじみ出ていて、意志が強く朗らかなパイオニアの姿が見えてきます。ローマ、ジブチ、ホノルルなどさまざまな土地を訪ねた体験を、楽しく語っています。

 

Holidays in Hell by PJ O’Rourke
『楽しい地獄旅行』P・J・オローク著

私はずっと外国の特派員になりたいと思っていましたが、アメリカのジャーナリスト兼風刺作家のP・J・オロークが書いたこの名作を読んで、さらにその思いが強くなりました。最悪の悲惨な状況の中に喜劇を見出し、誰も行きたがらない混乱した場所に命を吹き込みつつ、偽善、政治の私物化、消えゆく帝国主義者の夢を、カミソリのような鋭さで描き出した作品に、笑いながらもどんどん引き込まれていきます。優れた旅行記の多くがそうですが、まるで自分もオロークとともに世界の紛争地域を取材しているような気分になる本です。

 

The Living Mountain by Nan Shepherd
山旅の本は男性作家が多く手掛ける分野ですが、女性詩人で作家のナン・シェファードが書いたこの名作は、がむしゃらに頂上を目指す男臭さとは無縁です。第二次世界大戦中の作品ですが、心地よい文体で書かれたケアンゴーム山地の「かけがえのない自然」の描写は、彼女ならではの研ぎ澄まされた感覚がその場所をどのように理解したかを表現し、私たちを取り巻く自然界との関係を育むためにこそ、私たちは力を合わせるべきだと語りかけてきます。マクロな地理的視点を持ちつつも、何年にもわたってこの一帯をあてどなく歩いた記録には、これまでに読んだどんな旅行記よりも心を惹かれます。

 

マリエラ・フロストラップさん: ノルウェー生まれ、アイルランド育ち。 ラジオ4の「オープン・ブック」、スカイアーツ1の「ザ・ブック・ショー」で司会を務めるほか、デイリー・テレグラフ、オブザーバーでコラムを担当。 ブッカー賞、オレンジ賞の審査員も務めています。


Naples 44: Eland Publishing

In the Heart of Borneo: Penguin

My Great Wide Beautiful World: Forgotten Books

Holidays in Hell: Grove Atlantic

The Living Mountain: Canongate

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